また、風雅を愛した人


























東山御物の大茶壷「沢姫」。
足利8代目将軍義政の同朋能阿弥の
極めによる希代の名物。
森長可は豊臣秀吉の勧めに従い、
借金の末に沢姫を手に入れた。

死の数日前に長可は自ら裸壷を抱え、
家臣一同に沢姫を披露した。
長年尽くしてくれた彼らへの
感謝の印か、世の名残か。

茶の湯の世界を愛しながらも、
その人生風雅に迷う暇
(いとま)なく、
血にむせぶ戦場に出でて、
そしてそのまま還らなかった人。

長可は沢姫を秀吉に進上する事を遺言した。

自分亡き後の森家の事を、
憐れな母と弟の行く末を
誇りを捨てて頼みこむ長可の
悲痛な思いが哀しく沢姫にこもる。

茶器の主は戦場に斃れ、
沢姫に照る鈍い光は
ますます深い世界を映し出す。

4月9日は長可公のご命日です。