君看よ双眼の色 語らざれば憂い無きに似たり


 長可殿の奥方さまは、信長さまの命令で池田家から嫁いできた。

 恋も心も置いて行くべき政略結婚と思ったけど、出会ってしまえば

 お互いがそばにいることが一番自然のことのように思える。

 「そなた、案ずるな。」

 本能寺でこれからの道を問われた時も、徳川家と豊臣家が二分した時にも、

 長可殿は常に池田家をたてて、妻の実家と行動を共にした。

 奥方様は、ありがたさに涙がこぼれた。

 本当は長可殿には自分の胸の内で思う道があっただろうに、

 最後まで、池田家に義理を尽くしてくれた。

 なぜ私を残して逝ったと責められようか。

 「おまえさま・・・。」

 ありがとう。 

 

奥方は間もなく中村家へ再嫁させられた。そして夫・中村一氏の亡くなる1年前に、関が原の大戦を知ることなく波瀾の生涯を閉じた。
子の
伯耆守一忠は、徳川より松平の姓を許され伯耆18万石の米子城主になるも、一忠死後、継子なき理由で一代限りで中村家は取り潰された。