織田信長公は森可成と坂井政尚の不和に心を痛め、
その娘(のちの鴻野様)とその嫡子(久蔵)とを
縁づけられるも、怒涛の元亀元年が幕を開け、 夫婦の契りは幻と消える。
6月28日、姉川の朝。 敵将磯野員昌の軍が鯨波をあげて坂井の陣になだれ込む。
かき散らされゆく織田軍の最前線。
父・政尚はこらえきれずに兵を退くが、
若き久蔵は退くことを知らず、
敵の刃(やいば)を一身に受け、哀しく姉川の紅(くれなゐ)となる。
ときに久蔵いまだ十六歳。