本能寺

織田信長がいかに鋼鉄の精神を持っていようと、

老いとともに身体は朽ち果て

いつかはこの世界を退かねばならぬ______。


信長は後事を託さんと企て

常日頃より武将の子らを側に置いて、自らの肉声で

その夢や思いを彼らに語り聴かせた。

信長が去りし後は、信長を直接に知る彼らが、

蘭丸たちが、

壮大な夢の続きを紡(つむ)いでいってくれるはずであった。


しかし、皮肉にも運命はそれをよしとしなかった。

信長が手塩にかけて育んできた魂の後継者たちは

信長と同じ場所、同じ刻に果てた。

                     

『本能寺』 頼山陽

本能寺溝は幾尺なるぞ

吾大事を就すは今夕に在り

藁粽手に在り藁併せて食ろう

四簷の梅雨天墨の如し
 
老の坂西に去れば備中の道
 
鞭を揚て東を指せば天なほ早し
 
我が敵は正に本能寺に在り
 
敵は備中に在り汝能く備えよ