あなたがいた頃は


いつも金山のどこかで、兄達の笑い声がこだましていた。

姉達の楽しい遊び声が聞こえていた。

亡き父と可隆の位牌の前ではいつも香が焚かれ、

母はすこやかなる日々を感謝の内に生きていた。

森忠政にとっては、みんなに”せん”と呼ばれたこの時こそが

生涯のうち、一番の幸せな時間だった。

子が父を欺き、弟が兄を殺すこの時代に、

誰もがうらやむ家族のぬくもりが森家にはあった。

その時は、いつも手を伸ばせば誰かがいてくれた_____。

しかし忠政は常に葬列より全ての家族を見送り続け、

更には己の妻や若き子らにも先立たれた。

生涯、失うことをひたすら堪え続ける人生だった。