新右衛門常照

蘭丸らの母・妙向尼の父

人名 / 林新衛門常照(はやし しんゑえもん つねてる)

出身 / 越前国

生没年 /

法名 /

墓所 / 慈光山常照寺(じょうしょうじ)


 林家は森家には古くから仕え、森可成とともに、蓮台から金山城へ移ってきた。常照寺創設者の林為忠、そして森可成の妻となった女性(妙向尼)の父である。金山にやってきた林一家は、常照の妻であり、また妙向尼らの母である、故・妙願尼の菩提を弔うために一寺を建立した。妙願寺と号す。

 常照は嫡男の為忠とともに常に戦にしたがっている。天正10年(1582年)本能寺の変の急で、若き当主森長可が川中島から脱出の折に春日周防に裏切られたときも、先陣を切って千曲川に乗りいれている。 
 森長可が金山に帰りついて東美濃攻略に着手し、次々に攻め落とした城の1つ、苗木城に常照は城代として入り、慶長5(1600)年、森忠政が川中島に移封になるまで留守を務めている。

 長久手の戦にも参戦、若き主君長可が亡くなった時は、彼の遺言書を息子や各務兵庫とともに豊臣秀吉の元へ届けている。限りない疑問なのだが、娘の妙向尼が慶長元年(1596年)に73歳で亡くなる。その父といったら、いったいいくつになっているのだ??!いくつで城代やっているのだ!戦にでてるのだ!怖いぞ!すごいぞ!妙向尼ですら、計算すると40代で子どもを産んだりしている。その不自然さを考えると、妙向尼は実際のところ、もっと若かったのではないだろうかとも思う。そうでなければ、90代でもお父さんはまだまだ現役のとんでもないサイボーグ一家ということになってしまう。

 一方、息子の為忠は高山城代として入城し、慶長5(1600)年まで在城した。その時林家の菩提寺として城下に林家の菩提寺に父の名をあてた常照寺を創建している。この常照寺は金山に移された後は動かず、現在も金山に残っている。この寺には、彼の父、林新右衛門常照と、妙向尼(長可、蘭丸ら母)が眠る。


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■ 金山に建立された妙願寺は森忠政の川中島転封にともない一緒に川中島に引越し、また、後に忠政が津山へ移封になっても津山に

  付き従い、現在まで続いている。

常照には妙向尼のほかに、森家重臣・井戸宇右衛門に嫁がせた娘もいる。(長兵衛の娘とする文献もある)。その娘聟の井戸宇右衛門は
美作院庄で名護屋九右衛門と刃傷事件を起こして死んでしまうが、その為に林家も森忠政の元を去ることになったという。

■ 妙願寺の名は、常照の戒名の妙願院からとった、とする説もある。

   また、妙向尼の”妙”と”石山本願寺”の”願”をあわせた、という説もある。


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■ 逸話 (森忠政の元を辞し、福島正則に仕えていたという話)

 福島正則が安芸・備後を召し上げられて信州川中島に4万石で左遷されることとなった時に、福島の江戸屋敷が幕府の兵に取り囲まれた。もし、福島正則が異議に及べばたちまち撃つということだった。
 林新右衛門は福島正則の息女の守役だったが、新右衛門は正則の前に出て、
「もし、屋敷を取り囲んだ兵が乱入してくれば、早くご自害なさらねばなりません。私はここにおりますので、奥方の事はご心配なさってはなりませぬ。奥方の介錯を申し上げた上に、この皺腹を割いて屋敷に火を放ち、後の世の謗りにならぬように勤めます。」
と語った。

 後に林新右衛門は京都郊外に引きこもっていたのだが、義に厚い新右衛門の話に打たれて高禄で招く大名があった。しかし、新右衛門は了承しなかった。
「私の年は七十を越え、今は世に望みもない。殊に召し出されんとのお申し出の訳は、福島正則が相果てん時の一時的な出来事によってのこと。さして義を守ると申すほどのことではない。たとえ、抜群の功名で召抱えられるにせよ老体では、手足も不自由な一本鑓使いの身。明日何かあったとしても若武者どもには遥かに劣る。それなのに高禄をむさぼって召抱えられては、自分の心を欺くことになる。」と、言って終に仕官することはなかった。
彼の友人がこれを諌めて言う。
「言う事はもっともなれど、ひとつ子息の為とも考えられよ。」
新右衛門は「私が子供のことを思う気持ちは人と異なっている。身に応ぜぬ高禄を取れば、恥をかく元となる。人の災いとはこれに始まる事がある。”位牌(自分のこと?)が息子に知行を取らせて分に過ぎた事をしている”と人の口の端にのぼることになれば、それは子を愛する道とは呼べない。その上、私が浪人の身ゆえ、子供たちには薄録にても各々の主君がある。それなのに立身のために今の主君に暇を請うことも大いに貪欲。人は皆、名分というものがある。禍福は人の意志でどうにでもできるものではない。」と従わなかった。
彼はただ、危うきを見て命をさし出すだけでなく、よく義理に通じていた。誠にこれを俊傑の士と言わずにおれようか。
『武将感状記』

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